【クローン・第1話】プロローグ~誕生
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クゥーン、と、切なく苦しげに呻き声を上げた後に、彼女はハアッと深く息を吐き出した。
その直後、彼女の中から黒くて小さな塊が、ぬるりと吐き出され、床にぽとん、と落ちた。
黒ずんだ血にまみれてぴくぴくと蠢くその塊を抱き上げようと手を差し出したら、彼女はウーッと唸り声をあげて牙をむき出した。
俺は彼女の殺気立った表情に驚いて思わず手を引っ込めてしまった。
すると彼女は警戒心を残したままの眼で俺を見ながら、生まれたばかりの小さな命をペロペロと長い舌で舐めはじめた。
「ジャッキー、お疲れさん。よくがんばったな。」
俺はジャッキーを労うつもりで、背中を撫でてやろうとおそるおそる手を伸ばした。
けれど、彼女はまた牙を剥き出して、今にも俺の腕に噛みつきそうだ。
母親の本能なのかな?
ジャッキーは生まれたばかりのわが子を守ろうと必死な様子だった。
まあ、いいや。
しばらくは、ジャッキーに乳母になってもらうとするか。
でも、覚えとけよ。そいつは、俺の子なんだからな。
いや、もっと正確に言えば、俺の分身なんだぜ。
俺はジャッキーの胸の中でキューン、と小さな鳴き声をあげる仔犬を眺めながら、そう呟いた。
そいつは、まだ開くはずもない眼で何かを探すみたいに一生懸命鼻先を振って虚空を弄っていた。
梅雨明け間近の蒸し暑い7月の夜。
それが、俺とアイツの出会いだったんだ──。
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