Story

読書中の彼女は、無敵だった。実際読書に耽る彼女は、魂が抜けたような顔で、身じろぎもせず、一心に文章を追っている。そのわずかな目の動きでかろうじて、惹莉は彼女が正気なのだと悟るのだ。

高校生の梨杏は、大阪に暮らす両親とは離れて惹莉の所有するマンションに下宿している。惹莉とともに本の世界に生きて、現実に生きることを拒む梨杏。同じマンションに下宿し、同じ高校に通う譲はふたりを現実につなぐ唯一の接点であり、つかず離れず、ふたりを見守っていた。しかし梨杏の想いが譲へと向いたと知るや、譲は激しい拒絶を示した。許さない――それが彼の答だった。なぜ彼は拒むのか。その謎の手がかりは、彼の複雑な生い立ちにあった。


characters

倉橋 梨杏(くらはし・りな)
読書に一日の大半を費やす高校生。惹莉の友人の姪。その縁で、両親が大阪へ移り住む際に惹莉のもとへ居候することになった。当初は同居という形をとるが、のちに惹莉の所有するマンションの一室を借りて下宿するようになる。読書にのめり込む度合いは並大抵ではなく、ほとんど世界を形成していると言ってよい。

垣 譲(かき・ゆずる)
梨杏と同じ高校の同級生。高校入学時に大阪から東京に出てきて惹莉の所有するマンションに下宿・一人暮らしをしている。その縁で梨杏と知り合った。憧の前ではわりと冷淡な一面も見せる。惹莉と梨杏には穏やかに接していたが、ある出来事により豹変する。穏やかで聡いが、秘めた影を持つ。「アパルトマンの一隅」にも登場。

蓮実 惹莉(はすみ・わかり)
梨杏と譲の住むマンションの大家。梨杏の叔父の友人。もともと大阪に住んでいたが、標準語を喋る。梨杏と同じく読書にのめり込む。梨杏・譲・憧のことをあだ名で呼ぶ。過去に秘密を抱えている。譲とも何らかの繋がりがあるようだが、黙して語らない。「アパルトマンの一隅」「星と血の渦」にも登場。

風戸 憧(かざと・りつ)
譲の高校の友人。その繋がりで梨杏とも知り合う。梨杏に一目ぼれをして以来一途に思い続けているが、本人にはまったく気付いてもらえない。譲に慰めてもらうのが日課。


【本編へ】
【long story】
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