「名護くん日常閑話 〜初詣〜」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)



「なー」
「ん?」
「ぼちぼち初詣に行かね?」
「……またナンパか」
「なんでわかった!?」
「昨日の自分に聞いてみろ」
「だってよー。新年早々男の部屋に入り浸ってて何が面白いんだよ」
「分かってるのになんで来るんだ」
「しかたねーじゃん。お前がいたほうがナンパの成功率が上がるんだから」
「なにが仕方ないんだか」
「細かいことは気にすんなって。こんなつまらん正月番組なんか見てないで、一緒に行こうぜ」
「はぁ……。行くのはいいけど、ナンパはしないからな」
「全然オッケー。とりあえず隣にいてくれりゃ後は俺のトークで完璧さ」
「……昨日の自分に聞いてみろ」

「っはー! 昨日もすごかったが、今日もうじゃうじゃ人いるなー」
「今週いっぱいはこんなもんだろ」
「まあ俺としてはターゲットが多くなる分大歓迎だけどね」
「それじゃ、頑張ってきてくれ」
「おいおい、お前も来るんだよ」
「気乗りしないんだけどな……」



「おおっ。あそこの子、結構良くね? あの赤い振袖着てるの」
「いや、俺にふられても。声かけるのはお前なんだろ」
「まーな。んじゃ、さっそく行ってみますか」
「ああ」
「ねーねー。キミかわいいねー。一人できたの?」
「はい?」
「……あれ? おい、ちょっと待った」
「うっさい。――で、今時間あるかな。俺ら二人、ヒマしてたんだけどさ……」
「ああっ! ひょっとして名護くん? 中学のとき同じクラスだったよね、なっつかしー!」

「確か……赤嶺、だっけ」
「あったりー。久しぶりだね、元気だった?」
「まあ、ぼちぼち」
「いやー、そのすっ呆けた返答も変わってないねぇ!」
「赤嶺も、相変わらず元気そうだ」
「オイオイ! 俺も話に入れてくれよぅ!」
「すまん。忘れてた」
「名護くんのお友達?」
「俺も同じクラスだったよ! 忘れないでくれよ!」
「あー、思い出した。ガニマタくん」
「狩俣だ! か・り・ま・た!」
「そうそう、そういう名前だったね。いつも騒いで先生に怒られてた」
「そんな覚えられ方!?」
「ドンマイ。世の中そんなことだってあるってば。前向きにいこうよ」
「忘れてた本人が言うなあぁぁぁ!」

「あらら、行っちゃった。悪いことしたかな」
「いいよ。ある意味自分でまいた種だ」
「了解。じゃあ気にしない」
「赤嶺はここで待ち合わせ?」
「うぃ。そろそろ来るころだと思うけどね」
「それじゃ、これ以上引き止めるのも彼氏に悪いし、俺も行くよ」
「うへぇ!? なんで彼氏って分かるの?」
「さっきからあそこで微妙に怯えながら睨んでるのがいる」
「あー。名護っち遠くからだとちっと怖いからねぇ。近くだとオトボケさんなのに」
「それはどうも……名護っち?」
「気にしない気にしない」
「……じゃあな」
「んじゃねー」



「さて、アイツはどこ行ったかな」
「あ〜! お兄ちゃんだぁ!」
「伊波ちゃん、と諸味さん。こんにちは」
「はい、こんにちは」
「こんにちわ〜」
「名護さんはお一人で初詣ですか?」
「一応連れがいます。あの辺か、向こうの奥あたりに」
「ね〜、伊波たちといっしょにいこ〜よ」
「こら。名護さんを困らせないの」
「だってぇ……。お兄ちゃん、ダメ?」
「伊波ってば、あんまりワガママ言わないの」
「連れとは後で合流するから大丈夫ですよ。伊波ちゃん、行こうか」
「うん!」
「ごめんなさいね。この子がワガママ言って」
「実家の妹もこんな感じでしたから。かえって懐かしいくらいですよ」
「はやくはやく〜。ふたりとも、おいてっちゃうよ」
「はいはい。今行くよ」

「伊波だいきち〜!」
「あら、中吉」
「大凶……」
「このしょうぶ、伊波のかち〜。やっほぅ」
「伊波。おみくじってそういうものじゃないのよ」
「まあ大凶に比べれば完勝って気もしますが。とりあえず結んどこう」
「あ、伊波もむすぶ!」
「ちょっと待って。おみくじって良いやつは持って帰るんだよ」
「そうなの?」
「……ですよね?」
「いいえ。必ずしもそうとは限らないんですよ。もちろん、持って帰ってもいいんですが」
「へぇ。どっちでもいいんだって」
「じゃあむすぶ。お兄ちゃんのとなりがいい!」
「結構上のほうに結んじゃったけど」
「だっこ」
「はいはい」

「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。にぎやかで楽しかったです」
「またウチに来てくださいね。いつでも大歓迎ですから」
「おかげさまで、去年はいろいろと助かりました」
「お隣さんなんですから気にしないでください。来て頂ければこの子も喜びます」
「うん。またいっしょにあそぼうね」
「ありがとうございます。伊波ちゃん、またね」
「お兄ちゃん、ばいば〜い」
「ばいばい。――――――さて、そろそろ合流するか」



「おっまたせー」
「遅かったな」
「ワリィな。ちょいと、ね」
「……ふぅん」
「……あれ? なんか女の匂いがするぞ」
「そういう所だけ鋭いやつだ」
「これは、ズバリ女子高生!」
「…………十年前のか、それとも十年後のか」
「あん?」
「独り言だ」

「それより、これからどうする?」
「今日はイマイチ気がのらねぇな」
「来るときはすごく乗り気だったようだけど」
「やかましい! さっさと帰って正月番組でも見ながらおせち食おうぜ」
「悪い。おせちは晩飯に昨夜全部食った」
「元日に食い尽くすなよ!」
「カレーでも作るか」
「それはそれでいいかもな。モチロン、辛口な」



「それで、そのビンタの跡はどうしたんだ?」
「分かってて聞いてるだろ、テメェ!」




[終]



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