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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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師走にはいると、木枯らしが急に強くなった。それに促されるように、街を行く人々も慌ただしさが増した。毎年の事ながら、新年を迎える準備が始まっている。子供達は楽しげに、大人達は年越しのやりくりを思案しながら往来を行き交った。その日も、冬晴れの大気はしんしんと冷えていた。薄明の中、家々にぽつぽつと灯りがともり、眠っていた街が目覚め始めていた。人々は、いつもの通りNHKのラジオ放送を時計代わりにしながら、朝の支度にいそしんだ。



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Y村、日本のどこにでもあるような漁村である。日本中部に位置するため気候は温暖で、集落の近くまで山が迫っているため、田畑は少なく、人々は漁で生計を立てていた。この地方の中心都市であるS市へは、山越えをするよりも舟でS港まで行くのが普通であった。

その日、一人の兵士の出征祝いが開かれていた。網元の家で、質素ながら人々が精一杯の心を込めたうたげである。
案ずるより産むが易し・・・戦艦「厳島」艦長・小西大佐の方針のためか、厳島では噂のようなケツバット制裁は行われてはいなかった。そのことは、五助こと、中村一等水兵を安堵せしめた。しかし、野蛮きわまる制裁がゼロというわけではもちろん無い。海兵団程度に手加減をしてくれただけであって、ビンタ・鉄拳・ケツバットの三点セットは、ここ厳島でも健在であったのである。制裁が、完全になくなるのは、航海中だけであった。かくて兵士達は、一日千秋の想いで、出撃命令を待つことになる。
戦艦・厳島は、太平洋上を南下している。赤道近くになるにつれ、海は次第に凪いできている。熱帯特有の青く澄んだ海が美しい。珊瑚礁の近くは海の色がエメラルドグリーンに変わっている。青く澄んだ海と空を染めながら、今日も水平線に夕日が沈んでいく。この海で戦争が行われているのが信じられないほど、美しく、また長閑な風景である。

しかし、五助の心は晴れなかった。出撃前に聞いた「日本は負ける」という一平の言葉が耳にこびりついている。なぜあのようなことを言ったのか。若い一等水兵には解らなかった。ミッドウェー海戦の惨敗は伏せられていたから、戦況の実態は一兵卒の知るところではなかった。顔色の冴えない五助を心配して、自由時間に砂知川と金田が医務室へ行くよう声をかけた。医務室に行っても治るはずもない。五助が断ると、砂知川がのんびりと言った。

 戦局を挽回するため、第一機動艦隊司令長官・小沢中将は、アウトレンジ戦法により、米機動部隊との決着をつけようとはかった。これは、数の上で劣勢な聯合艦隊が、零戦・彗星の航続距離を利用し、米軍機の行動範囲外から敵艦隊に攻撃を加える、まさに必殺の戦法であったのである。一平や坂口兵曹長が考えたように、零戦の機能をフルに生かせる作戦であった。しかし、米太平洋艦隊は、その時既に、零戦に対抗する新鋭戦闘機、グラマンF6Fヘルキャットの大編隊の編制を終了し、さらに、200km手前から敵の位置を正確に把握できるよう、高性能の電波探知機レーダーを戦艦・駆逐艦・航空機に装備させていた。いわば、聯合艦隊の行動は敵に筒抜けであったのである。

敵機来襲の報を受け、ただちに米艦隊は、F6Fヘルキャット450機を発進させた。さらに電波誘導システムで、F6Fを零戦の真上まで正確に誘導したのである。


目立った妨害もなく、第一次攻撃隊は西進した。攻撃目標まで後わずか、突如、上空より敵の大編隊が襲いかかった。急降下する敵をかわすべく、操縦桿を引くも、凍り付いたように動かない。止まったように見える零戦に対し、F6Fヘルキャットの12.7mm機銃が火を噴いた。防弾装甲の薄い零戦では、機銃掃射さればひとたまりもない。次々と爆発、操縦士ごと洋上に砕け散った。後にM海のターキー・ショット(七面鳥うち)と嘲笑された大惨敗である。

F6Fの攻撃を免れた零戦はわずかである。彼らは果敢にも米艦隊に対し攻撃を仕掛けた。しかし、待ち受けていたのは凄まじいまでの対空砲火であった。米軍の砲弾は、命中せずとも爆発し破片を四方に散乱させ、零戦を爆発炎上させる。何事が起こったのか理解する間もなく、若い操縦士達は南太平洋上に散華した。彼らを打ち落としたのが、新兵器・VT信管搭載の対空砲弾だったのである。

零戦の優れた格闘性能・速力、その恐ろしさを身にしみて知っていた米国は、総力を挙げて新兵器を開発した。一つがF6Fヘルキャットであり、もう一つがVT信管だったのである。このVT信管開発には、マンハッタン計画に匹敵する予算が組まれたという。まさに、金田一等水兵の分析の通り、「経済力」であった。

第二次攻撃隊六五機もなすすべもなく、F6FとVT信管の餌食になった。もはや、聯合艦隊を守ってくれる航空戦力は無いも同然である。着艦したパイロット達を休ませると、米太平洋艦隊はゆっくりと進撃を始めた。

目標、日本海軍、第一機動艦隊・第一航空戦隊。一平達の乗る戦艦・厳島が護衛する空母艦隊にねらいを定めたのである。


二週間近い漂流の後、一平達は奇跡的に、駆逐艦に救出された。彼らはF島の海軍基地に搬送された。ここで、一平に特務大尉への昇進が伝えられた。

「吉崎特務大尉。ご昇進おめでとうございます。」

坂口兵曹長にそう言われ、一平は苦笑している。何が特務大尉だろうか。聯合艦隊には、乗れる艦はもう殆ど残っていない。乗る艦もなく、何処が海軍なのだろうか。

「まさに陸に上がったカッパだな。」一平は兵曹長にぼやいた。「こんな事なら、航空兵にでもなっておくんだった。」

「飛んでいるのは、敵機ばかりですよ。」坂口兵曹長が、慰めた。

あの海戦で、空母機動部隊は全滅した。大和は健在だったが、航空戦力が壊滅している以上、あの戦艦も持てる力を発揮できるとは思えない。また、警戒警報が発令された。守備隊は、高射砲を撃っている。敵は悠々と旋回し、四方に爆弾を投下した。こちらに戦闘機が無いことをよく知っているのだろう。一平は塹壕から空を見上げた。

 
海軍の投降兵達は、海兵隊の収容所に護送され、捕虜生活が始まった。幸いにも指揮官ハミルトン中尉は、捕虜に対し人道的な扱いを命じた。米軍は、彼らに塹壕掘りや道路の整備を行わせたが、三度の食事もきちんと与えられ、傷病兵に対する扱いも十分なものだった。五助達マラリアに罹った兵士にはキニーネが与えられ、快方に向かっている。兵士達は友軍の基地にいるときよりも血色も良く、動作もきびきびとしてきた。

「我々は、どうなるんですか?」ある日、五助が不安げに訪ねた。「ずいぶん、良い待遇です。しかし、後でひどい目に遭わされるんじゃ無いでしょうか?」

「そんなことはあるまい。ジュネーブ条約ってものがある。アメリカさんはそれを守る気だろうよ。問題はその後、日本に帰ってからだ。」一平は言った。
船は三月の初めに東京港に着いた。東京は廃墟と化していた。あの瀟洒な町並みはかけらもなく、一面の焼け野原に汚らしいバラックが点在している。ゴミの饐えた匂いと空襲で焼かれた家屋の匂いが混ざり、異様な臭気が立ちこめている。街そのものの死臭というものがあるとすれば、この匂いがそうなのかも知れない。呆然と見つめながら、一平はふと思った。

「東京は丸焼けだ。これでは、砂知川さんのご家族がどこにいるのか・・・」五助が当惑したようにつぶやいた。

「菩提寺が住所の近くにあるはずだ。そこで聞けば、何か手がかりがあるだろう。」

二人の姿をぼろを着た子供が一瞥すると、そそくさと去っていった。その子に声をかけるものは誰もいなかった。出会う大人達も痩せて顔色が悪く、自分が生きるのに精一杯のようであった。戦災孤児か。一平は思う。負けるというのはこういう事か。我々は国のために戦った。その結果がこれなのか。二人は、押し黙ったまま通りを歩いた。
昭和三八年。

東京オリンピックを翌年に控え、東京は高度経済成長のまっただ中にあった。集団就職列車で、田舎から若者達が首都に向かい、東京の発展を手助けした。ここ、Y村では、相変わらず昔ながらの暮らしが続いていたが、高度経済成長の槌音は、この村にも密かに、しかし確実に響いてきたのだった。

村に戻った一平は、その後風のように暮らした。降るようにあった縁談も全て断り、一時は捕鯨船に乗ったこともあったが、五助とともに小舟で漁をすることが多かった。そんな一平を村人は好奇の目で見つめた。しかし、一平は一切意に介さず、静かに日々を送っていった。

第二次大戦後、アジア諸国では独立の気運が高まった。ベトナムでも、ホー・チ・ミン率いるベトナム民主共和国軍は、宗主国フランスとの戦いに勝ち抜き、ここに民族の悲願であったベトナム民主共和国の独立を果たした。しかし、ドミノ理論を恐れるアメリカは、ベトナムを北緯17度線で南北に分割し、傀儡政権であるベトナム共和国(南ベトナム)を樹立させた。ここに、アメリカのベトナムへの介入が本格化する。

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